特許付与の条件として、その技術が実際に使われていることを条件に加えるべき

2021年1月28日

一行要約:特許を承認する条件として、発明者が一定期間内に発明を利用することを追加することを提案する。そうすれば利用されてない特許が経済活動を阻害することはなくなる。

パテント・トロールが問題となって久しい。パテント・トロールとは「ある特許について,その特許 をビジネスに利用しておらず,利用する意思もなく又 殆どの場合はビジネスに利用したこと自体がないにも 関わらず,その特許を使って莫大な利益を上げようと する人物・企業・組織」のことである[1]我が国企業のパテント・トロール対応策:https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201502/jpaapatent201502_086-092.pdf。パテント・トロールではライセンス料や和解金の額が高額になるケースがあり、企業にとって事業の見通しが立てづらいという弊害がある。

また、パテント・トロールに限らず特許そのものについても批判がある。ノーベル経済学賞の受賞者であるスティグリッツは、知的財産権は知識の拡散を阻害する要因になりうるとしている[2]Why learning matters in an innovation economy:https://www.theguardian.com/business/2014/jun/09/why-learning-matters-innovation-joseph-stiglitz。また同じくノーベル経済学賞を受賞しているマスキンは特許制度そのものを廃止した方がいいとしている。理由はソフトウェア産業など一部の産業においては、技術発展は小さな発展が積み重なって大きな技術革新につながっており、そのうちの一つが特許により独占が許されると技術革新全体が妨げられるというものである[3]Patents on Software: A Nobel Laureate’s View:https://www.nytimes.com/2012/10/15/opinion/patents-on-software-a-nobel-laureates-view.html。特許制度が発明者に与える独占的利用権は他の生産者の経済活動の自由を妨げることになるので、自由主義の理念と一致しない部分がどうしても出てくると言えよう。

特許を登録するにはいくつか要件があるがそのうちの一つに「産業上の利用可能性」がある。これは出願された発明が実際の産業やビジネスで利用できる可能性が必要である、という条件である。問題はその利用可能性を官僚が判定しているということである。特許庁の審査官は技術的な知識が豊富であることになっているが、かといってビジネスや産業の実情についての知識は限界がある。これは審査官の知識が不十分ということではなくて、これだけ複雑化した経済について一個人や人数が限られた組織では充分な専門知識を持つことが不可能だということである。

この問題はシンプルに解決できる。産業上の利用の可能性を満たすために、発明者が一定期間内に発明を利用することを条件にすればいい。期間は1年でも2年でもいいし、個人発明家の場合は数年の猶予を持たしてもいいだろう。発明者自身が発明の実用性を一番理解しているはずだし、発明者すら利用しない技術に産業上の利用価値があるとは言いづらい。具体的には以下のような仕組みになる。

  • 現状どおり発明者が申請した発明内容は特許庁の審査官が審査する。
  • 特許が認められた場合、発明者は1年以内にそれを利用開始するか特許を第三者に販売する必要がある。発明者か特許の購入者により特許技術が利用開始されなかった場合は特許庁に申告する必要がある。特許庁は申告を受けた時点で特許事項を抹消する。
  • 発明者は特許権を販売できるが、特許の購入者はその特許技術を活用し続ける事を前提とする。
  • 特許の所有者は特許技術の利用を止めた場合は特許庁に申告する必要がある。特許庁は申告を受けた時点で特許事項を抹消する。

特許とは発明家を保護すると同時に、生産者の経済活動を制限するしくみでもある。特許の登録条件はその2つのバランスがとれるようにデザインしてほしい。